保育園の送迎バスのなかに置き去りにされた園児が亡くなる、痛ましい事故が起こりました。この背景には、送迎バスを「保育」と位置づけず、対策をとらなかった行政の問題もあるのではないか—。悲劇を二度とくり返させないために、検証と対策を強く求めました。(2022年10月19日、各会計決算特別委員会第2分科会)
◯斉藤委員 日本共産党の斉藤まりこです。
私からは、保育の質の問題に関わって、これまでの取組について伺っていきたいと思います。
最近では、子供の命に関わる重大な事故や保育園の補助金の不正受給など、保育の質をめぐる問題が次々と明るみに出ています。様々に起きている事例から、これまでの取組が十分だったのか、指導検査の在り方についても検証が必要だと思っています。
送迎バスでの置き去り事故をうけ、行政がふみこんだ対応を
〇斉藤委員 まず、送迎バスでの園児の置き去り事故についてです。
九月五日に、静岡県牧之原市の認定こども園で、三歳の女の子が送迎バスの中に置き去りにされ、熱中症により亡くなるという痛ましい事故が起こりました。防げなかった仕方のない事故ではなく、送迎や保育に関わる大人が何重にも子供の所在や出欠の確認を怠っていた重大な事件だといわなければなりません。
今、政府は、ヒューマンエラーを補うためのバスへの安全装置の設置の義務づけや、そのための財政支援を決定したところですが、検証すべきことはほかにも多くあると思っています。
具体的に伺っていきたいと思いますが、送迎バスでの置き去りの事故は、昨年八月に福岡の認可保育園でも起きたばかりでした。
昨年度までの保育園での置き去り事故に対する対策と、福岡での事故を受けての都の対応について伺います。
◯奈良部少子社会対策部長 都は区市町村に対しまして、国への報告のほかに、迷子、置き去り、連れ去り等が発生し、または発生しかけた場合に報告をするよう独自に依頼しております。
令和三年七月に発生した福岡県の事案を受けまして、国は、送迎バスを運行する場合等の安全管理の徹底について通知を発出しております。都は、区市町村を通じて保育所等にこの通知を周知したほか、認可保育所等に対する講習会で、バス送迎時等の置き去り事故の防止について注意喚起をしております。
◯斉藤委員 国の通知の周知や講習会での注意喚起、事故防止の対策を取るよう求めてきたということです。全国的にこうした対応が行われてきたところだと思いますが、静岡では同様の事故が繰り返されてしまったという現状です。
この間、国が行った送迎バスについての緊急アンケートで、東京都での結果について資料をいただいていますけれども、都内でも送迎バスは百二十三の保育施設が導入しており、他人事ではない問題だというふうに思います。今後の取組の強化に当たって、このアンケートの検証も必要なものだと思います。
これまでの取組として、指導検査の状況はどうだったのか、送迎バスでの園児の安全を守っていくためには、十分な同乗者、保育士等の配置、降車時の確認や出欠状況の共有が重要であり、きちんとこうした業務が行われているか指導検査していくことが重要だと思いますが、これまでの指導検査はどのように行われてきたのか伺います。
◯坂本指導監査部長 都は、保育所等の指導検査に当たりまして、児童福祉施設設備運営基準等に定めます基準を踏まえまして策定いたしました指導検査基準等に基づきまして実施しております。送迎バスにつきましては、現在、国の基準等が定められていないことから、指導検査事項とはなっておりません。
また、都は昨年度より、認可保育所等に対する講習会におきまして、バス送迎時の置き去りの事故防止について注意喚起をしているところでございます。
◯斉藤委員 送迎バスについては、国の基準がないために指導事項とはなっていないと、したがって指導検査もないということで、これは改めて驚きましたけれども、この背景には、送迎バスは保育ではないという考えがあったということがあります。
保育園の送迎事業を行っている千葉県流山市の我が党の市議団が国に対して、送迎バスの実施要件についてただしたところ、厚労省の担当者は、バスの中は保育ではないということ、また、児童何人につき何人以上の保育士をつけるという最低基準はないというふうに答えています。
しかし、保護者の手から離れて園児がバスに乗るときからが保育のスタートではないでしょうか。園児を預かり、その日のその園児の状況確認や安全の確保など、送迎バスは保育の一部だと考えますが、認識を伺います。
◯奈良部少子社会対策部長 保育事業者が実施している場合でも、車両送迎は保育サービスではなく、私的契約に基づく有償サービスと位置づけられております。
◯斉藤委員 今、この現状でも保育ではないという認識をいい切れるっていうのは、私は本当に驚きだというふうに思います。
都は、保育園の登園時に保育士がどのような対応を行っているのかご存じないんでしょうか。子供を預かるということは、荷物を預かるというのとは違って、まだうまく言葉で表現できない小さな子供たちの命を預かる大切な使命があり、保護者からその子供の状況を聞いたり、子供の顔色や様子を確認する大切な仕事をしています。その大切な子供の引渡しの作業を園ではなく送迎バスで行うということになり、そこには大きな責任が伴うというふうに思います。そうしたこれまでの国や行政の認識の低さが、今回のこのような事故を起こしてしまった背景にもあるんじゃないかというふうに思います。
今回のような取り返しのつかない重大な子供の死亡事故を受けて、今後は、送迎バスでの職員の配置と業務が適切に行われているか最低基準に定め、指導検査の対象にしていくことを国に求めていくことと、都として実施していくことが重要だと考えますが、いかがですか。
◯奈良部少子社会対策部長 国のバス送迎に当たっての安全管理の徹底に関する緊急対策によりますと、バスの乗車、降車時に幼児等の所在の確認が確実に行われるようにするため、府省令等の改正により、幼児等の所在確認と安全装置の装備を義務づけるとされております。府省令等が改正された際には、都としても適切に対応してまいります。
◯斉藤委員 ご答弁のとおりですけれども、国が義務づけるといっているのは所在確認と安全装置だけなんですね。職員の配置というものは基準がありません。
送迎バスでお子さんを預かる時点で保育が始まっているという基本的な立場に、認識に立って、この最低基準に定めるということを国に求めていくこと、そしてそれに基づいて都として指導検査を行っていくこと、さらに都独自の基準についても検討するということを強く求めます。
バスによる送迎は、置き去りの問題に加えて、先ほどお話しした保育士と保護者のやり取りをどうするか、運転中の安全についてなど考えるべき点が多くあります。そうしたことも含めて、バス送迎の在り方について検討することを求めておきます。
都内でもくり返される置き去り事故の根絶へ、事実をふまえた検証を
〇斉藤委員 保育園での置き去り事故は、送迎バスだけでなく、お散歩中や公園で遊んだ後などにも発生しています。都では、国への保育事故の報告に加えて、独自に置き去りや迷子などの所在不明になった件について報告を求めているということは重要だと思います。
朝日新聞では、その報告件数について、二〇一七年度に十四件、二〇一八年度に十八件、二〇一九年度に三十四件、二〇年度は二十八件と増加傾向だということが報じられています。このことは事実で間違いないでしょうか。
◯奈良部少子社会対策部長 当時把握していた件数につきまして、取材に対応したことは承知しております。
◯斉藤委員 ちょっと今の答弁では意味が分からないんですよね。間違いがないのかどうかということ、お答えいただけますでしょうか。
◯藤井委員長 お答えありますか。
◯奈良部少子社会対策部長 先ほども申し上げましたが、当時把握した件数につきまして、取材に対応していたということは承知しております。
◯斉藤委員 繰り返しの答弁で、結局、間違いがないのかどうかというのは分からないんですよね。
資料要求では昨年度までの二年分の数字を回答していただいていますが、これも基となる書類が二年分しか残っていないということで、それ以前の数字は出されていません。要するに、それより前の数字は間違いがないかどうか分からないということだというふうに思います。
しかし、今回の事故を通して置き去りの重大性について大きく認識されました。さらに、足立区でも置き去り事故は発生していますが、公園に置き去りになったり、迷子になっている園児が地域の人に保護されたりと、一歩間違えば命につながる事故になる重大な事案です。置き去り事故は、場所がどこであれ子供の命に直結する重大な問題です。
今後は統計の裏づけとなる文書を継続して保管していくべきだと考えますが、いかがですか。
◯奈良部少子社会対策部長 事故報告の保存期間は一年としておりますが、死亡事故等の重大事故につきましては、都及び区市町村におきまして、都度、重大事故の再発防止のための事後的な検証は行っております。
文書の保存期間等につきましては、東京都文書管理規則に基づきまして、毎年度所要の見直しを行っております。
◯斉藤委員 毎年見直しを行っているということなので、この置き去りの重大性に鑑みて、保存期間を延ばすということを強く求めるものです。
要求資料によると、昨年度の発生件数は八十件と前年に比べて急増しています。急増している理由、また、ここ数年でも増加傾向にあるという理由について、どう分析しているのか伺います。
◯奈良部少子社会対策部長 都は、保育事業者に注意喚起をするために、区市町村に対しまして置き去り等に関する報告を独自に求めており、報告の必要性の認識が保育事業者に浸透しつつあるものと受け止めております。
◯斉藤委員 事故報告の必要性の認識が浸透しつつあるということですけれども、確かに昨年度は、福岡県での送迎バスでの死亡事故があり、周知が強化されたということはあったというふうに思います。しかし、周知が浸透してきたということだけではない要因があるのではないかということも検証していかないといけないと思います。
都は、置き去りの発生の報告について、発生した際の状況と検証、対策について報告をしてもらっているということですが、どのような状況での発生や検証結果が多いのか伺います。
◯奈良部少子社会対策部長 置き去りは屋外活動中で多く発生しております。また、置き去りを防止するポイントといたしましては、職員間の役割分担の明確化や情報共有、場面の切り替わりでの人数確認などが挙げられます。
◯斉藤委員 置き去りが発生する場面や事故防止のポイントについてお答えいただきましたが、なぜこれらのことが実施できなかったのかということに踏み込んで検証しなければ、つまり保育士に注意喚起を促すだけでは不十分ではないでしょうか。
保育士の配置基準を引き上げ、安全で豊かな保育へ
〇斉藤委員 今、保育現場から多くの声が上がっているのが、子供たちの安全を守り、豊かな保育を保障するために、保育士の配置基準を引き上げて保育士を増やしてほしいという声です。
ご存じのとおり、国の最低基準は、ゼロ歳児三人に対して保育士一人、一歳、二歳児は六人に対して保育士一人、三歳児は二十人に対して保育士一人、四歳、五歳児は三十人に対して保育士一人、これ大人一人で見られるのか、改めて聞いただけでも、とてもじゃないですけど一人で見られる人数ではありませんよね。集団的に見ているとはいえ、十分に目が行き届かなくなるのは明らかだというふうに思います。
四歳児、五歳児クラスの保育士の配置基準は、戦後直後の七十四年前につくられてから全く改善されていません。愛知県の保育士や保護者が立ち上げた子供たちにもう一人保育士さんをと求める実行委員会が、保育施設への職員に対して行ったアンケートでは、国の保育士基準では子供の命と安全を守れないと思う場面として、災害時と回答した人が八四%に上り、散歩や水遊びも約六割に上っています。
保育士の配置基準が保育の現場に見合ったものと考えているのか、都の認識を伺います。
◯奈良部少子社会対策部長 職員配置基準は国が省令等で定め、都や区市町村はそれらを踏まえ、それぞれの議会等の審議を経て条例等で定めております。
◯斉藤委員 私は都の認識について聞いたんですね。基準をどうやって定めているのかというのを聞いたんじゃないんです。ちゃんと聞いていることに答えていただきたいんですけれども、散歩や水遊びなど保育に欠かせない日常的な活動の中でも、約六割の方が国の基準では安全が守れないと答えているんです。
現在の保育現場では、十一時間開所や延長保育、園庭のない保育園が増える中でのお散歩やアレルギー対応など、様々な対応が求められています。
もう一度聞きますが、このアンケートの結果、こうした実態を聞いても、都は、保育士の今の最低基準は保育の現場に見合ったものだと認識しているんでしょうか。
◯奈良部少子社会対策部長 繰り返しになりますが、職員配置基準は国が省令等で定め、都や区市町村はそれらを踏まえ、それぞれの議会等の審議を経て条例等で定めております。
◯斉藤委員 認識について何も答えられないというのは、私は本当に情けないと思うんですけど、条例がどうやって、配置基準がどうやって定められているかという話じゃないんですね。
こういうことをきちんと認識を持っていただきたいというふうに思うんですけれども、保育士が子供たちの安全を守り、豊かな保育を保障していくためにも、ずっと、そして今も、一番に現場から求められているこの保育士の配置基準、これの切実な現状、目を向けて引き上げていくということ、踏み出していただきたいと思います。
国に保育士の配置基準と公定価格の引上げを求めるとともに、都として上乗せ基準をつくって財政支援していくことが求められますが、いかがですか。
◯奈良部少子社会対策部長 保育サービスは、国が定める公定価格により運営されることが基本でございまして、公定価格には人件費、管理費及び事業費が含まれております。
都はこれまで、国に対し、恒久的、安定的財源を十分に確保するとともに、公定価格の単価などについて、大都市の実情に応じたものとするよう繰り返し提案要求しております。
また、保育の実施主体である区市町村がそれぞれの地域の実情に応じて保育サービスの充実に取り組めるよう、保育サービス推進事業により支援しております。
◯斉藤委員 都は国に対して、公定価格を都市の実情に応じたものにするように要求しているということですけれども、それにとどまらず、保育士の配置自体を抜本的に増やせる充実が必要です。同時に、都が独自にこの上乗せ基準をつくって財政支援を行うということも可能です。都として東京の子供たちの安全を守っていくためにも、保育士の配置を厚くできるよう踏み出すことを求めます。