下水道施設のコンセッション方式導入やめよ

2018年3月16日 公営企業委員会

 

斉藤委員 私からも、下水道事業の民間への包括委託とコンセッション方式の検討について伺います。

先ほどのお話とは真逆の論を展開することになりますが、下水道局の事業は、これまで公営企業として、衛生的で快適な暮らしを全ての都民に提供する使命を持って行われてきました。汚水の処理による生活環境の改善だけでなく、雨水の排除による浸水対策や公共用水域の水質保全など、都民生活と公共の福祉に資する大切な役割を担ってきました。今後も、この役割は都民にとって欠かせないものであり続けると思いますが、それを果たすためのあり方の検討が始まっているところです。

十二月二十六日に都政改革本部に提出された報告書では、下水道管の老朽化対策、浸水対策の強化、人口減少に伴う下水道料金の収入の減少という三つの課題が示されています。

下水道事業の今後のあり方を検討する上で、民間への包括委託、また、コンセッション方式が具体的に取り上げられています。これらの課題を解決する手段として、果たして民間が担う範囲を広げていくこと、つまり民営化が有効な手段となり得るのか、冷静に考えていかなければならないと思います。

この報告書は、主に区部での状況がまとめられていると思いますので、私からの質問もこの報告書に沿って区部でのことが中心になると思いますが、まず基本的なことをお伺いしたいと思います。

 

下水道事業の本来の目的

 

東京都において、下水道局がどのような法律に基づいてこれまで事業に取り組んできたのかを改めて伺います。

安藤総務部長 下水道局は、下水道法に基づき下水道の整備を図り、都市の健全な発達及び公衆衛生の向上に寄与し、公共用水域の水質の保全に資することを目的として事業を実施しております。

同法では、公共下水道の設置、改築、修繕、維持その他の管理は、市町村が行うものとされており、東京都区部におきましては、市町村を都と読みかえることとなっております。

斉藤委員 今ご答弁いただきました下水道事業においての根幹部分は、とても大切なところだと思います。

そしてもう一つ、事業の大切な基本となっているのが地方公営企業法だと思いますが、第三条では、企業の経済性を発揮するとともに、その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営されなければならないとされています。つまり、本来の目的は公共の福祉を増進することであり、経済性の発揮に偏って本来の目的が果たされなくなるような状況をつくってしまってはなりません。

この理念に支えられて、東京の下水道、多摩地域も同様ですが、誰もが衛生的な水環境の中で暮らすことができる社会が実現できているのだと思います。

皆さん方も、日々このことを誇りに思って仕事をされていることと思います。そうでもないという方がいましたら、きょうは、このことをぜひ一緒に共有していきたいと思います。

 

業務の民間委託について

 

まず、都政改革本部に提出された報告書に、現在の委託の状況が示されています。東京都は、維持管理業務を中心として、既に四四%の業務が委託されています。維持管理コストの削減と示されていますが、これまでの業務の民間委託により、具体的にはどのような経費が削減されているのでしょうか。

安藤総務部長 これまで、汚泥処理施設の運転管理業務や下水道管の維持管理業務などを監理団体である東京都下水道サービス株式会社へ委託することなどによりまして、主に人件費を削減してまいりました。

斉藤委員 主に人件費が削減されてきたということです。

東京都と同じく委託率が四四%とされている大阪市では、下水道事業が二〇一六年から包括民営委託にされています。大阪市に伺ったところ、それによって五年間で十三億円の経費削減ができるとのことでしたが、中身について伺うと、ほとんどが委託会社に転籍させた六百七十人分の人件費だということです。

人件費を削減していく、職員数を減らしていくということについては、我が党はこれまでも、事業の質が担保できるのか、技術や経験が下水道局内に蓄積できるのかという観点から厳しく追及をしてきました。

民間委託の中で働く人たちの雇用や労働環境が低下していくことは、下水道事業の質を保ち、公共の福祉の増進を図ることにつながるものではないと、我が党は懸念を指摘しているところです。

では逆に、民間委託ということではなく、下水道局が直営でやってきた事業の中で、維持管理経費を削減するためにどのような工夫をされてきたのか伺います。

中島計画調整部長 下水道局では、これまでに、電力を大幅に削減できる省エネルギー型濃縮機の導入を初め、新たに技術開発した汚泥焼却時の廃熱を活用した発電や送風機の運転時間を短縮する運転管理の工夫、さらには水再生センターやポンプ所などの遠方監視制御化など、維持管理費の削減に積極的に取り組んでまいりました。

斉藤委員 下水道局みずからの技術力によって、直営事業の中でもさまざまな経費を削減してきたというお答えでした。

冒頭でご答弁もいただきましたが、東京都の下水道事業は、公衆衛生の向上に寄与し、そして公共用水域の水質を保全する目的を安定的に果たすために、下水道局がその役割を長年にわたって担ってきました。

その意味では、皆さん方は下水道事業においてまさにプロの集団なんだというふうに思っています。だからこそ、今お答えいただいたような技術革新によっての経費削減も、民間でなければできないということではないんだと思います。

 

コンセッション方式(運営権の売却)について

 

報告書には、民間を活用した運営手法について示されています。包括民間委託、コンセッション方式をそれぞれ比べると、委託よりも包括民営、包括民営よりもコンセッション方式の方が、民間事業者のインセンティブが働きやすく、コスト削減につながると書かれていますが、では、コンセッション方式を導入すると、具体的にはどんなコストが削減できるのでしょうか。考え得ることがあれば教えてください。

安藤総務部長 これから本格的な検討を行うことになりますが、一般的にはコンセッション方式では、民間事業者のノウハウなどを生かし、施設の維持管理費に加え、改築更新費などのコスト縮減が可能であるといわれております。

斉藤委員 一般的にいわれていることとしてのお答えでしたが、これは正直いって、皆さんも頭をひねるところではないかと思います。

民間でなければできない経費削減とは、具体的にはどんなことがあるのか。例えば、調達を工夫してスケールメリットを生かすということもいわれていますが、これは公営ではできないということではありません。先ほどのご答弁でもあったように、技術と経験を蓄積している下水道局であれば、技術革新も直営の中で進めていけるわけです。

また、先ほどもお話にありましたように、事業を平準化するアセットマネジメント手法の活用や管渠の更新の際に、道路を掘らずに施工可能な更生工法を活用するなど、この整備手法の導入ができるということも報告書の中で示されています。このことで年間で四百四十億円の経費削減ができるということは、とても重要なことだと思います。

結局、民間の手法でしか削減できない経費とは一体どんなものかを突き詰めていくと、働く人の労働条件を切り下げて人件費を抑えていくということしか明らかにはなりません。これが民営手法の本質の部分ではないでしょうか。

さて、今後、施設運営のあり方の検討についてですが、下水道局ではどのように検討されるのでしょうか。ちょっと重複するかもしれませんが、お願いいたします。

安藤総務部長 現在、調査研究の具体的な方法について検討しているところですが、国や他自治体の動向及び海外の事例も含め、幅広く情報収集してまいります。

 

浜松市とヴェオリア社との契約の実態

 

斉藤委員 四月から、下水道の浄化センターでコンセッション方式が導入される浜松市のことや、上下水道の再公営化が進んでいる世界の事例を検証していくことはとても大事だと思っています。

今回、私も浜松市まで伺いまして、いろいろ資料などもいただいてきました。浜松市の件は、市が南東の沿岸部に位置する西遠処理区にある下水道最終処理場の運営権を、ヴェオリア社を中心とした民間企業六者によって設立された特別目的会社に売却し、二十年間にわたって同社が運営をするという契約です。

まず驚いたのが、その運営権対価の二十五億円、これ、先ほどもお話ありましたが、金額に驚いたのではありません。その金額が適正なのかどうかをどのように検証したのかを伺ったところ、適正価格という概念はないということでした。これも先ほどのお話にもありましたが、契約前のその資料には、確かに運営権対価はゼロ円以上とし、優先交渉権者選定時の提案によるものとすると書かれています。

なぜなのかと伺うと、このケースでは七・六%の経費削減ができるために、運営権対価はなくてもいいという考えだということでした。七・六%のコスト削減の中身は何なのかと伺うと、企業秘密のために公にはできないということでした。非常に曖昧で、中身の検証さえできない極めて不透明なものだといわなければなりません。

その契約書、こちらですが、百二条に及ぶ膨大なものです。私は、民営化に詳しい弁護士さんと一緒にこの分析を行いました。驚くべき条項が多く盛り込まれていますので、その一部を四つの観点からご紹介をしたいと思います。

まず、事業の質の担保にかかわる条項ですが、本事業にかかわる業務について、市に通知をすれば第三者に委託をすることができるという条項があります。市が契約した相手とは別の事業者が業務を行うことができるようになっていて、まさに市の手から離れたものになっていってしまう可能性があるということです。

また、業務の監督は、運営権者によるセルフモニタリングが原則というふうになっています。二十年もの長期間の契約の中では、市や第三者にモニタリングができるだけの能力や体制は残らない可能性が大きくなります。

さらに、この契約では、運営権者は設備や機器の改修も行うことができるので、例えば、設備がヴェオリア社の物にかえられてしまったら、そのモニタリングや質のチェック、これは企業の手の中に入って、なってしまうということが懸念されるわけです。

次に、議会と住民によるコントロールはどうなるのかという点ですが、契約書の中では、情報開示の範囲は、運営権者が、自身が作成する取扱規定によるとされて、そして市と運営者の互いの承諾がない限り、契約に関する情報を他の者に開示しないという秘密保持の義務が課されています。

先ほども触れましたが、まさに多くの事項が企業秘密として非公開になるおそれが大きく、議会や住民による運営権者に対するコントロールが極めて困難になります。

また、本来事業とは別の任意事業、収益事業を行ってよいということになっていて、さらに運営権者の事業資金調達のために、運営権への担保の設定は、市が合理的な理由なく拒めないとなっています。

例えば、本来事業とは別の収益事業のために運営権を担保にすることができるということになりますが、事業に失敗して強制執行となれば、運営権が移転してしまうことを市は制止することができません。

さらに、近隣住民の反対運動や訴訟等が起きたときの運営権者の損害は、市が補償するということになっています。住民の反対の声を損害と捉えること自体が住民の利益と相反するものだと思いますが、その負担を市に負わせるということは、まさに企業は責任をとらないという無責任な体制だといえます。

次に、料金設定はどうなるのかという点ですが、浜松市のこの施設では、分流式ですので、合流式の東京都の区部とは条件が違うと思いますが、この契約ではどうなっているのかといいますと、利用料金は、市の基準に従って運営権者が設定し、増減が必要な場合は協議するということになっています。

しかし、情報開示が十分に行われるか保障がなく、さらに先ほどもいいましたが、設備改修の際に、例えば、ヴェオリア社の設備を導入するということも可能なため、長期間にわたる契約の中で、市側に知識や経験に習熟した専門的力量のある職員が残らない可能性が大きく、料金の設定の協議も、実際には運営権者主導で行われるおそれが大きくなります。世界ではまさに、この民間主導の仕組みの中で上下水道の料金が引き上げられてきているわけです。

そして、災害時のことも重要です。特に、下水道施設に大きな影響を及ぼす集中豪雨の発生など、施設への流入水量が著しく変化する場合の対応はどうなるのか、まずは、今の下水道局での対応についてお伺いしたいと思います。

安藤総務部長 下水道サービスを効率的かつ安定的に提供するために、事業実施に責任を持つ下水道局を中心として、監理団体である東京都下水道サービス株式会社及び民間事業者との三者で、それぞれの特性を生かした役割分担のもと事業を運営しております。

現在、雨水ポンプの運転などについては、集中豪雨時の迅速かつ的確な判断などが必要であることから、局直営で行っております。

斉藤委員 集中豪雨における雨水ポンプの運転は、緊急時の判断などが必要となるために直営で行っているということです。

私は、こうした災害時には、公的にきちんと責任を持って対応ができることが大事だというふうに思っています。都民の暮らしと命を水害から守り、公衆衛生を保つために、人目には触れないような皆さんの仕事がライフラインを支える重要な役割を果たしているということを、改めて認識する必要があると思っています。

この災害時での対応について、浜松市とヴェオリア社を中心とする民間会社との契約ではこうなっています。市は、不可抗力により履行困難となった運営権者の本契約上の業務の履行を必要な範囲及び期間において免責することができる。これでは、災害など不可抗力が起こったときに、この運営権者がしっかり責任を持って対応するのかということが大変不安な状況になるわけです。さらに、地震、暴風、豪雨等の自然災害にかかわる不可抗力による費用の増加等、この負担は原則的に市の負担になるということです。リスクの負担を減らすことは企業の利益にはなるでしょう、しかし、それは住民の利益とは明らかに反するものとなります。

このように、契約書全般にわたって、企業の不利益にならないような条項が定められています。当然ですが、自分たちに有利にならないような契約を企業は結びません。民間の創意工夫でコスト削減できるということがいわれていますが、私はこれは逆だろうというふうに思っています。

企業による運営では、住民目線から見れば、余計な支出がたくさん出てきます。株式配当、役員報酬、法人税、そして内部留保。公営であれば、余剰の部分は余計な支出をせずに、例えば、将来への設備投資、事業の質の向上、あるいは料金の値下げという形で都民に還元することができます。

 

世界では再公営化の流れ

 

これまで、浜松市での契約書の内容から細かい部分を見てきましたが、木を見て森を見ずということではいけないと思います。全体を見ることも大切なことだと思います。

世界では、一九八〇年代から水の民営化が進められてきましたが、発展途上国でも、先進国でも、お金持ちしか安全な水や衛生的な水環境にアクセスできない社会が生まれ、多くの市民が苦しめられました。一九九〇年代、二〇〇〇年代を通じてコンセッションが成功した例はないといわれています。パリやベルリン、アトランタなど世界の主要都市において、一旦民営化した上下水道事業の再公営化が進んでいます。

そもそも世界の水の民営化は、水をビジネスとする大企業、浜松市と契約をしたヴェオリア社やスエズ社などの水メジャーと結びついた各国政府が、世界銀行をバックに民営水道モデルを自治体に押しつけて、利益拡大を図ってきたものです。利益をめぐって汚職まで起きている事例もあります。

全ての人々に、健康で衛生的な環境を提供するという本来の下水道事業の目的を果たすためには、例えば、不採算性の強い地域だからといって、下水道事業を撤退することはできません。そのために公費も入れて事業を行ってきたのが下水道事業です。利益を上げることが目的になる企業の論理に下水道事業を落とし込めば、事業の質の悪化、不採算部門の切り捨て、料金の高騰につながることは既に世界の多くの事例で明らかになっています。

個人的なことになりますが、私は四十歳まで民間企業で働いてきました。今回初めて議員になる前まで勤めていた会社は、世界百五十カ国に支店や代理店を持つグローバル企業でした。しかし、何でもかんでも民間の手法で社会事業の問題が解決するわけではないということを今痛感しています。

東京都や自治体、公共セクターには、民間にはできない重要な役割があります。全ての人々に、安全で衛生的な水環境を提供していく、下水道の仕事はその最たるものだと思います。

水問題に対して、国際的に活動を展開しているモード・バーロウさんの「ウォーター・ビジネス」という本に、二〇〇三年に京都市で開かれた第三回世界水フォーラムのことが書かれています。これは先ほどの水道局でもやりましたので、委員の皆さんには繰り返しになってしまうんですが、下水道局の皆さんにも聞いていただきたいと思います。

二〇〇三年に京都市で開かれた第三回世界水フォーラム、下水道局の方もこのとき数名の方が傍聴をしてきているというふうに伺っています。ここで、世界中から集まった市民活動家たちが、日本の自治体の責任者たちに会って話を聞いたそうです。その一節を紹介したいと思います。

日本には、世界で有数のすばらしい公営水道、上下水道が存在する。私たちは、幾つもの自治体の誇り高き公営水道の責任者たちに会い、日本の公営水道サービスの維持管理に必要な技術的専門性について話を聞いた。フィリピンのIBON財団、これはフィリピンの市民参加型の調査開発機関のことですけれども、この財団のトニー・チュハン氏は、日本の公共セクターの持つ専門性が専門家派遣や知識、経験の移転を通じてマニラにももたらされていれば、全ての人のお金が節約でき、苦悩が軽減されていただろう、そのように書かれています。

これまで世界を席巻してきたウオータービジネスですが、そのひどい実態に苦しめられてきた世界中の市民たちが今求めているのは、ウオータージャスティスです。市民生活を一番に考え、社会正義を貫く公共セクターの上下水道の施策こそが今求められています。

下水道事業を公的に行うことのとうとい意義を再認識して、都民の暮らしを守る使命を全うするために、上下水道をこれ以上民間に委ねていくのではなく、公営としての事業を堅持していただくことを強く求めまして、私からの質問を終わります。

ありがとうございました。